陶器
オリジナルマグカップ(陶器)の作り方|転写プリントの仕組みと発注・規制まで
陶器のオリジナルマグカップは「どの転写方式を選ぶか」で、作り方・最小ロット・単価・色の自由度・食器としての安全性まで全部が変わります。結論から言うと、フルカラー写真を1個から安く作るなら昇華転写(190℃前後)、本格的な食器として焼き込みたいなら本焼成のシルク/インクジェット(1,200℃前後)が基本です。本稿では実際の工程の温度・時間・dpi、ロットと相場の実数、そして売る・輸出する際に避けて通れない食品衛生法/FDA/EU規制、表示義務、PL法、CO2まで実務目線でまとめます。数字は出典付きで、不確かなものは「目安/要確認」と明記しました。
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材料・素材の選び方
| 材料 | ポイント |
| 陶磁器マグカップ素地(ブランク) | 容量はマグなら約300〜350ml(11oz)が定番、大きめで15oz。素材は陶器(earthenware)/炻器(stoneware)/磁器(porcelain)。昇華転写用は外面にポリエステルコーティング済みのブランクを使う(コーティングが無いと昇華インクが定着しない)。重量の目安は手作り350g前後、量産品はより軽い |
| 昇華転写紙・昇華インク | A4/A3対応の昇華(サブリメーション)専用転写紙+昇華インク。専用プリンタ(例:TexStylus320R/210R)で出力。データは原寸350dpi前後で作成するのが無難(印刷データの実務標準。要案件確認) |
| 上絵/転写用セラミック転写紙(本焼成・シルク系) | スクリーン版にセラミック顔料インクを刷ったデカール。版は色数ぶん必要(版製作代が色数に比例)。800℃級の上絵焼成に耐え変色しない |
| 釉薬・低温顔料・フラックス(ガラス質フリット) | 赤/橙/黄の鮮やかな色は鉛・カドミウム系の無機顔料を使うことが多く溶出源になる。装飾の上にフラックスを被せ再焼成すると溶出を大幅低減(実測例 2.5→0.18µg/mL) |
| 耐熱テープ・治具 | 昇華プレス時に転写紙のズレ防止。200℃以上に耐える耐熱テープが必要。マグプレスは直径80mm/100mm対応の専用機 |
作り方(工程ステップ)
- 方式を決める(設計の起点)フルカラー写真・1個〜小ロット・低コスト=昇華転写(外面コーティング層に定着)。食器として本格的に焼き込む・口縁まで装飾=本焼成のシルク/インクジェット(1,200℃級)。単色30個程度ならシルク本焼成のコストデメリットがほぼ消える
- データ作成(dpi・色・セーフゾーン)原寸で作成、解像度は350dpi前後を目安(昇華は写真適性が高い)。RGB入稿可否は方式により異なる。重要:口縁(リップ)から内側3cm以内、および内面には鉛・カドミウム系の低温顔料を置かない設計にする(後工程の溶出検査対策)
- 転写紙/デカールを作る昇華は転写紙にミラー反転で出力。シルク本焼成は乳剤を塗った版を乾燥→露光→硬化→洗浄して版を作り、セラミック顔料で刷ってデカール化する
- カップへ転写する昇華:転写紙をカップに巻き耐熱テープで固定→マグプレスで190℃・3分半〜4分(室温・湿度で微調整)。水転写デカール:転写紙を水で浮かせ、温めたカップの指定位置に貼る
- 焼成(焼き込み)昇華:プレス内の加熱でインクが気化しコーティング層に染み込む(190℃前後)。上絵デカール:約800℃で焼き付け(変色しない)。本格食器の本焼成は約1,200℃以上で釉薬がガラス化し顔料を封じ込める。鮮色を安全に出す場合は装飾の上にフラックスを被せ再焼成
- 検査(食器として出すなら必須)食品衛生法:食品接触面を4%酢酸に常温24時間浸漬し鉛・カドミウム溶出を測定(酸性食品を想定した最も溶け出しやすい条件)。口縁部の溶出規格をクリアすること。輸出向けはFDA/EUの試験成績書も用意
- 検品・梱包・出荷発色ムラ・転写ズレ・ピンホール・口縁の欠けを全数or抜き取り検査。割れ物のため緩衝材で個装。販売・配布なら表示(後述)とトレーサビリティ(ロット管理)を付ける
必要な設備・道具
- 昇華転写用プリンタ(例:TexStylus320R/210R)と昇華インク
- マグ用昇華プレス機(直径80mm/100mm対応)
- 耐熱テープ(200℃以上対応)・固定治具
- スクリーン製版設備(本焼成シルクの場合:乳剤・露光機・版枠)
- 電気炉/トンネル窯(上絵焼成 約800℃/本焼成 約1,200℃級)
- 鉛・カドミウム溶出試験(4%酢酸24時間)を行う検査体制または外部試験機関
ロット・コスト・納期の目安
| 最小ロット | 昇華転写・水転写なら1個から製作可能(写真フルカラーも1個OK)。本焼成シルク印刷は版代が色数比例でかかるため、単色なら30個程度から実用的。小売の名入れ系では最小30個・単価275円(税込)といった例もある(素地・印刷方式・色数で大きく変動)。 |
| コスト感 | 目安(国内・素地+片面プリント):1個から作る昇華転写は1個あたり約1,000〜2,500円。30〜100個ロットの名入れ陶器マグは1個あたり約275〜800円(税込・素地グレードと印刷面積による)。本焼成シルクは別途版代(色数×版製作代)が初期に乗る。いずれも目安で、素地・容量・色数・印刷範囲・短納期で上下する(要見積)。 |
| 納期 | 目安:昇華転写の小ロットは入稿後 約3〜10営業日。本焼成シルク/大ロットや海外生産は数週間〜。繁忙期・版製作・検査(溶出試験)を挟むとさらに延びる(要確認)。 |
品質・法規の注意
- 口縁(リップ)内側3cm・内面に鉛/カドミウム系の低温顔料を置かない設計にする(溶出検査の通過率が大きく変わる)
- 鮮やかな赤・橙・黄ほど溶出リスクが高い。フラックス被せ再焼成で低減できるか事前にサンプル検査する
- 昇華転写はコーティング層への定着のため、研磨・強アルカリ洗浄・長期の高温で退色しうる旨を用途に応じて注意喚起
- 食洗機・電子レンジ可否は素地と印刷方式で異なる。金/銀の上絵は電子レンジ不可。可否を実機テストして表示する
- 『食器』として売るなら食品衛生法の溶出基準適合がスタートライン。ノベルティでも口に触れる以上は同基準で設計する
国ごとの規制
| 国・地域 | 規制・必要対応 |
| 日本 | 食品衛生法(器具・容器包装の規格基準)。陶磁器は食品接触面を4%酢酸に常温24時間浸漬し鉛・カドミウムの溶出量を測定。2008年(平成20年)7月に陶磁器・ガラス・ホウロウの溶出限度値が引き下げられた。容量・形状(深さ)で区分が分かれ口縁部にも基準。基準超過品は製造・販売・輸入・使用が禁止される |
| 米国(US) | FDAが陶磁器からの鉛・カドミウム溶出をCompliance Policy Guideのaction levelで規制。カップ/マグは『small hollowware』かつ口縁(lip/rim)からの溶出が対象で、溶出鉛は2.0ppm未満が目安(action level=安全値ではなく規制発動の閾値)。加えてカリフォルニア州プロポジション65(Prop65)で鉛・カドミウム等の警告表示義務。基準超過の陶磁器は輸入時に税関で留置・廃棄されうるため、FDA認定第三者試験機関の成績書を貨物に添付するのが実務 |
| EU | Regulation(EC)1935/2004の枠組み下、陶磁器はCouncil Directive 84/500/EEC(改正2005/31/EC)が適用。口縁(lip-and-rim)を持つカップ/マグは鉛2mg/個・カドミウム0.2mg/個が放出上限(試験はISO 4531系)。製造者または輸入者が上限超過しない旨の『適合宣言書(written declaration / Annex II)』を添付する義務。試験法はAnnex III |
| 英国(UK) | EU離脱後もEUと同等の枠組み(旧84/500/EEC由来の溶出限度・適合書類)を維持。販売には限度値クリアと測定を裏づける書類が必要。試験法はBS 6748:1986/EU 2005/31/EC系 |
表記・ラベル義務
- 原産国表示:家庭用品品質表示法では陶磁器の原産国表示は義務ではないが、景品表示法(原産国告示)上、原産国を誤認させない表示が必要(『Made in Japan』等を付すなら実態と一致させる)
- 家庭用品品質表示法:陶磁器製食卓用品は『雑貨工業品』区分。該当品目では寸法・取扱い上の注意等の表示事項が定められる場合があるため、自社製品が指定品目に当たるか要確認
- 取扱い表示:食洗機/電子レンジ/オーブン可否、退色・割れ注意などを表示(JIS L0001の取扱い絵表示は繊維製品向けで陶磁器の組成表示義務とは別。陶磁器はピクトグラム/文言で可否を明示)
- EU向け:適合宣言書(DoC)を添付、必要に応じてFCM(food contact material)のグラス&フォークマークを表示
- 米国向け:Prop65該当時は警告ラベル。鉛溶出する装飾には『Not for Food Use / 装飾用』表示で食器用途から外す選択肢もある
製造者責任(PL法)
製造物責任法(PL法):欠陥(設計上・製造上・指示警告上)により消費者が被害を受けた場合、製造者は過失がなくても損害賠償責任を負う。マグでは『鉛・カドミウム溶出』『熱湯での破損・把手の脱落による火傷』『電子レンジで使えない旨を表示しなかった(指示警告上の欠陥)』が典型リスク。対策はロット単位のトレーサビリティ(素地ロット・顔料ロット・焼成記録・溶出試験成績の紐づけ保管)、取扱注意の明示、PL保険の付保。問題発生時は消費者庁のリコール情報サイト/事故情報データバンクに沿って回収・交換・返金を行う。輸入販売者も国内では製造業者等として責任主体になり得る点に注意。
環境・CO2排出量
カーボンフットプリント(目安): 目安:量産陶器マグ1個あたりのカーボンフットプリントは概ね0.8〜1.2 kg-CO2e(LCA分析の平均的な値)。素材ベースではポルトガルの量産陶器(earthenware)で約2.9 kg-CO2e/kgという研究値、手作り350gマグを二度焼成・国際輸送・3年使用・廃棄まで含めた揺りかご〜墓場では約7.5 kg-CO2eという試算もある。いずれも製法(焼成回数・窯)・輸送距離・使用年数で大きく変動する目安。窯の高温焼成が排出の主因で、低温乾燥のヒートポンプ化で最大24%、水素/バイオガスへの燃料転換でネットゼロ条件下約85%削減という前向きLCAも報告されている。
使い捨て紙コップ等に対し、陶器マグは『何百回も使う』ことで初めて環境的に有利になる(製造時排出が大きい分、長く使う前提の設計が要)
焼成回数を減らす・地域窯で輸送距離を短縮・割れにくい設計で買い替えを減らすのが現実的な削減策
昇華転写は溶剤系を使わず低温で印刷面を作れる利点。一方コーティング層由来でリサイクル性は素地ガラス質より劣る点を考慮
廃棄:陶磁器は一般に不燃/陶磁器ごみ。回収して骨材・再生陶土に回すルートの有無を自治体で確認
よくある質問
- 昇華転写と本焼成(シルク/インクジェット)、どっちを選べばいい?
- フルカラー写真を1個〜小ロットで安く作るなら昇華転写(190℃前後・外面コーティング層に定着)。食器として本格的に焼き込みたい・口縁まで装飾したいなら本焼成(約1,200℃)。単色30個程度ならシルク本焼成のコストデメリットはほぼ消えます。
- オリジナルマグは食洗機・電子レンジで使える?
- 素地と印刷方式によります。本焼成の磁器は概ね可ですが、昇華転写品やコーティング品、金・銀の上絵は退色・スパークの恐れがあり不可のことが多い。必ず実機テストして可否を表示してください(指示警告を怠るとPL法上の欠陥になり得ます)。
- 色がはがれたり色落ちしませんか?
- 釉薬の下/中に焼き込む本焼成は非常に堅牢。昇華転写はコーティング層への染み込みなので堅牢だが、研磨・強アルカリ洗浄・長期高温で退色しうる。用途に応じて使用上の注意を添えるのが安全です。
- 自分用に1個だけ作れますか?売り物にするときと何が違う?
- 昇華転写なら1個から作れます。ただし不特定多数に販売・配布するなら、食品衛生法(鉛・カドミウム溶出基準)への適合、原産国などの表示、PL法上のトレーサビリティが必要になり、輸出するなら国別規制(FDA/Prop65/EU適合宣言書)が加わります。
- 赤やオレンジの鮮やかな色を安全に出すには?
- 鮮色は鉛・カドミウム系顔料を使うことが多く溶出源になります。口縁内側3cm・内面には置かない設計にし、装飾の上にフラックス(ガラス質)を被せて再焼成すると溶出を大きく下げられます(実測例で2.5→0.18µg/mL)。最終はサンプルで溶出試験を。
MUなら、言うだけ。ここまで読むと分かる通り、陶器マグは『印刷』より『どの方式・どの顔料を、どこに、何℃で焼くか』と『売る国ごとの溶出規制・表示・適合書類』の設計が本体です。MUなら、作りたいデザインと用途(自分用/販売/輸出先)を言うだけで——方式選定(昇華か本焼成か)、口縁セーフゾーンを考慮したデータ整形、溶出検査が要るかの判定、最小ロット/相場/納期の見積、そして日本/米国/EU向けの表示・適合宣言書の要否までを肩代わりできます。依頼はそのままMUの発注管理に乗るので、見積・入稿・検品・出荷・ロットのトレーサビリティが1本の流れで追えます(規制適合の最終判断や試験成績書の取得など、人が確認すべき箇所は人のゲートを残します)。
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