ニット
無縫製ニット(ホールガーメント)の作り方|糸・工程・規制・コストまで
無縫製ニット(ホールガーメント/WHOLEGARMENT)は、身頃も袖も1着まるごと立体で編み上げる、縫い合わせのないニットです。一般的なカット&ソーやリンキングと違い「パーツを編んで縫う」工程が存在せず、1本の糸が一筆書きの要領で製品になります。この記事では、糸の番手・ゲージの選び方、横編機での編成工程、縫製レス特有の設計・品質の勘所に加え、日本(家庭用品品質表示法・JIS L0001:2024)、米国(FTC繊維製品識別法)、EU(規則1007/2011)の表記/輸出規制、PL法上の製造者責任、そしてこの製法のCO2排出量の目安までを、オリジナル製造を発注する立場で実務的に整理します。
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材料・素材の選び方
| 材料 | ポイント |
| ウール(メリノ) | 梳毛(ウーステッド)糸の2/48(2本撚り・48番手相当)〜2/30が定番。ハイゲージ向けは細番手、ローゲージ・厚手は2/14など。防縮(スーパーウォッシュ)加工糸を選べばJIS L0001で家庭洗濯可表示に寄せられる |
| カシミヤ | 15.5ミクロン前後の極細獣毛。2/26〜2/48が一般的で、12〜15ゲージのハイゲージで上質感を出す。1plyや2plyの選択で目付け(重さ)が変わり、薄手クルーは1〜2ply、厚手は4ply目安 |
| アクリル/アクリル混 | 量販・コスト重視の主力。番手の振れが少なく編成が安定、価格はウールの数分の一。ただしCO2は1kgあたり約21kg-CO2e(後述)と意外に高い点に注意 |
| 綿(コットン)/綿混 | 春夏ニット向け。2/30〜2/60の梳綿・コーマ糸。伸縮回復が弱く、無縫製では度詰め(編み密度)と縮絞管理が型崩れ防止の肝 |
| 防縮・撥水等の機能糸 | 撥水性を表示する場合は家庭用品品質表示法上の任意表示項目。機能を訴求するなら試験データ(カケン・ニッセンケン等)を確保 |
作り方(工程ステップ)
- 1. 仕様確定(ゲージ・糸・寸法)使用ゲージ(針密度。3〜18ゲージ程度。例:上質薄手=12〜15G、厚手=3〜7G)と糸の番手・ply、完成寸法(胸囲・着丈・袖丈)を確定。無縫製は縫い目で寸法調整できないため、グレーディング(サイズ展開)も最初に設計する
- 2. ニットプログラム作成(編成データ)島精機SDS-ONE APEXなどのデザインシステムで、目数・段数・度詰め値・成形(増減目)・編組織を設計し横編機用データに変換。袖と身頃を袋状に裾から同時に編み出し、目移しで接合する立体プログラムを組む。ここが品質とコストの中核
- 3. 度(編み密度)出し・縮絞テスト小片(スワッチ)を編み、洗い前後の縦横寸法を実測して縮絞率を算出。狙い寸法から逆算してプログラムの目数・段数を補正。糸ロット差・湿度でテンションが変わるため、量産糸での再確認が必須
- 4. サンプル編成(横編機・1着まるごと)ホールガーメント横編機で1着を無縫製で編成。シンプルなセーターで1枚あたり約30分が目安。裾・襟・身頃・肩を連続して編み立て、リンキング(縫い接ぎ)工程が発生しない
- 5. 洗い・仕上げ(縮��・整形)編み上がりを洗絨(洗い)して目を落ち着かせ、所定の温度で乾燥・プレス/立体整形。ウールは40℃以下の弱処理、カシミヤはさらに低温で管理。ここで最終寸法が決まる
- 6. 検品・寸法検査完成寸法を全数または抜取りで検査し、設計寸法との差を確認。無縫製は不良の手直し(縫い直し)ができないため、寸法外れはリプログラムからやり直しになる。編みキズ・度ムラ・糸切れも確認
- 7. 表示付け・梱包組成表示・取扱い表示(JIS L0001:2024記号)・表示者の氏名/住所または電話番号を縫い付けまたは下げ札で付与。輸出する場合は仕向地(米=FTC、EU=規則1007/2011)の表記に差し替え。たたみ・個包装して出荷
必要な設備・道具
- 島精機製作所 ホールガーメント横編機(WHOLEGARMENT機・MACHシリーズ等)
- デザイン/プログラミングシステム(SDS-ONE APEX)
- チーズ/コーン巻きの編糸・給糸装置(テンション制御)
- 洗絨機・脱水機・乾燥機(縮絨・洗い工程)
- 成形プレス/立体整形(人体型・バキュームアイロン)
- 検反・寸法検査台、計量器(目付け確認)
- ケアラベル/組成ラベルの印刷・縫付け設備
ロット・コスト・納期の目安
| 最小ロット | 小ロット対応の国内工房(例:東京・八王子の佐藤ニット等)では、デザインや糸込みで数十枚〜の相談が可能なケースもあるが、量産発注は一般に1型1色あたり50〜100枚以上、色サイズ展開を含めると数百枚規模がコスト的に現実的。ニットプログラム作成費(型代)が初回に別途かかるため、枚数が少ないほど1枚あたりは割高(要見積)。 |
| コスト感 | 製品上代の目安として、国産ホールガーメントのセーターはおおむね1万円台後半〜数万円帯(カシミヤ等の高級素材はさらに上)。OEM製造原価は素材・ゲージ・編成時間で大きく変動し、アクリル系の量産で1枚あたり数千円台〜、ウール/カシミヤのハイゲージで数千円〜1万円超まで幅がある(いずれも目安・要見積)。初回はプログラム作成費(型代)が数万円〜十数万円別途かかるのが一般的。 |
| 納期 | ニットプログラム作成+度出し+サンプル承認に2〜4週間、量産は数量と糸調達次第で2〜6週間が目安(糸の別注染色が入るとさらに数週間加算)。トータルでサンプル着手から納品まで1.5〜3ヶ月を見ておくと安全(目安・要確認)。 |
品質・法規の注意
- 縮絞率(洗い縮み)を量産糸ロットで再確認する:糸ロット差・湿度でテンションが変わり、同一プログラムでも寸法がぶれる
- 無縫製は手直し不可:寸法外れ・度ムラはリプログラムからやり直しになるため、量産前の寸法確定を最重要工程として管理
- 糸切れ・編みキズが1着丸ごとの不良に直結する:給糸テンションと結節管理を徹底
- ピリング(毛玉)・寸法変化率は試験機関(カケン・ニッセンケン等)で事前確認し、ケア表示と整合させる
- 撥水・防縮など機能を訴求するなら根拠データを保持(景品表示法・優良誤認の回避)
国ごとの規制
| 国・地域 | 規制・必要対応 |
| 日本 | 家庭用品品質表示法・繊維製品品質表示規程の対象。組成(繊維名と質量割合%)、取扱い表示(JIS L0001:2024記号。2024年8月20日改正で同規格に基づく表示が原則義務)、表示者の氏名/名称+住所または電話番号の表示が必要。セーター等のニットも対象品目 |
| 米国 | FTCの繊維製品識別法(Textile Fiber Products Identification Act/16 CFR Part 303)で、繊維組成(質量比の多い順に一般名と%)、原産国(country of origin)、製造者または責任事業者名(またはFTC発行のRN番号)の表示が必須。襟のある製品は襟内側に縫付け。別途Care Labeling Ruleで取扱い表示が必要 |
| EU | 規則(EU)No 1007/2011で、市場に出す全繊維製品に繊維組成表示(例:100% wool)が義務。動物由来の非繊維部分の明示、表示は耐久・判読容易・視認可能・確実な貼付が要件。販売する各加盟国の言語への翻訳が必要。2024年に発効した一般製品安全規則(GPSR)等の追加要件も要確認 |
| 英国 | EU離脱後も規則1007/2011を国内化した英国版繊維表示規則が適用され、繊維組成表示が必要。EU向けとは別表記・別運用になり得るため仕向地ごとに確認 |
表記・ラベル義務
- 組成表示:繊維名と質量割合(%)を表示(混紡は多い順)。日本=家庭用品品質表示法、米=FTC、EU=規則1007/2011で各々必須
- 取扱い表示:日本はJIS L0001:2024の記号を洗濯→漂白→乾燥(タンブル/自然)→アイロン→クリーニングの順に並べて表示。米国はCare Labeling Ruleの記載が必要
- 表示者情報:日本は表示者の氏名/名称+住所または電話番号。米国は製造者/責任者名またはRN番号
- 原産国表示:日本の家表法では原則必須項目ではないが、米国(FTC)は原産国表示が義務、EU/英国も実務上必要。輸出時は仕向地基準に差し替え
- 撥水性などの機能表示は任意表示(訴求する場合は試験根拠を保持)。CE/技適マークは繊維衣料には原則該当しない(電子部品内蔵等の特殊品のみ要確認)
製造者責任(PL法)
製造物責任法(PL法)は、製造物の欠陥により人の生命・身体・財産に被害が生じた場合に製造業者等が負う無過失責任。アパレルでは設計上・製造上・指示警告上の欠陥(例:染料による皮膚障害、金具・装飾の脱落による誤飲・けが、誤った取扱い表示で生地が損傷)が問われ得る。衣料品は消費生活用製品安全法のリコール義務対象ではないため、回収は事業者判断になるが、子供用・装飾付きは自主回収の傾向が強い。OEMでも「製造業者等」に該当し責任主体となり得るため、糸ロット・編成データ・工場・試験結果のトレーサビリティ(どの製品がどのロットか追える記録)を残し、PL保険の付保とリコール手順を事前に整えておくのが実務上の備え。
環境・CO2排出量
カーボンフットプリント(目安): 目安:セーター1着あたりの平均は約28.6kg-CO2e(材料で大きく変動)。素材1kgあたりではバージンウール約10〜103kg-CO2e(うち75%超が羊のメタン・糞尿由来)、アクリル約21kg-CO2e、ポリエステル(バージン)約1.2kg-CO2e/kgとの試算がある。無縫製は裁断ロス(従来約30%・1着あたりA4サイズ相当の端材)が発生せず、リンキング工程も省けるため製造段階の廃棄ロスとエネルギーを削減できる。ただし数値はLCAの前提・対象範囲で大きく振れるため、あくまで目安として扱い、訴求時は自社製品でのCFP算定(経産省・環境省カーボンフットプリントガイドライン準拠)が望ましい。
裁断くずゼロ・端布なし(従来比でカットロス約30%削減)
縫い接ぎ(リンキング)工程の省略で工程エネルギー・人手を削減
防縮(スーパーウォッシュ)糸+家庭洗濯可表示で使用段階の温水・乾燥負荷を抑えられる
リサイクルウール採用で素材CO2を大幅低減(試算で0.1〜0.9kg-CO2e/kg)
縫いしろ・芯地が不要で単一素材化しやすく、リサイクル適性が高い
よくある質問
- 無縫製ニットは縫い目が本当に全くないのですか?
- はい。身頃・袖・襟までを横編機で立体的に一体編成するため、肩や脇のリンキング(縫い接ぎ)がありません。縫いしろがないので肌当たりが良く、生地の切れ端(端布)も発生しません。
- 最小ロット(MOQ)はどれくらいですか?
- 小ロット対応の工房なら数十枚から相談できる場合もありますが、量産は一般に1型1色50〜100枚以上が現実的です。初回はニットプログラム作成費(型代)が別途かかるため、枚数が少ないほど1枚単価は高くなります(要見積)。
- 作るのにどれくらい時間がかかりますか?
- シンプルなセーターなら編成自体は1枚約30分ですが、実務ではプログラム作成・度出し・サンプル承認・量産・洗い仕上げを含め、着手から納品まで1.5〜3ヶ月程度を見込みます(糸の別注染色が入るとさらに延びます)。
- 海外で売る場合、ラベルはそのままで大丈夫ですか?
- いいえ。日本のJIS L0001表示のままでは不十分です。米国はFTC(組成・原産国・製造者名/RN番号・ケア表示)、EUは規則1007/2011(組成表示+各国言語)と要件が異なるため、仕向地ごとに表記を差し替える必要があります。
- アクリルとウール、環境負荷はどちらが低いですか?
- 一概には言えません。素材1kgあたりではアクリル約21kg-CO2e、バージンウールは飼育由来のメタンを含むため約10〜103kg-CO2eと幅があります(いずれも目安)。リサイクルウールやリサイクルポリエステルを使うと大きく下げられます。訴求するなら自社製品でのCFP算定が確実です。
MUなら、言うだけ。ここまで読むと分かる通り、無縫製ニットの本当のコストは「編む」ことよりも、ニットプログラムの作り込み、度出し・縮絞テスト、そして日本・米国・EUで全部違う表記義務やPL対応にあります。MUなら、作りたいものを言葉で伝えるだけで、こうした設備手配・編成データ・仕向地ごとのラベル要件といった工程をこちらで巻き取れます。そして、その依頼はそのままMUの発注管理(見積・製造・出荷の追跡)に乗るので、糸ロットや工場のトレーサビリティ(PL対応に効く記録)も最初から残ります。誇張なく言えば、無縫製ニットは「縫い目がないから直せない」製法。だからこそ、設計と規制の難所を任せて、あなたはデザインと売り方に集中できる、というのがMUの使いどころです。
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